Tatsuya Horikawa
May 26, 2026·Engineering·4 min read

薬剤師がコードを書けると、現場の何が一気に解けるのか

「薬局のDXが進まないのは、現場が変わりたくないからではない。業者側が現場を知らないからだ。」とも思ってます。薬剤師×エンジニアという稀少種が今、本当に効く3つの領域について考えてみました。

薬剤師がコードを書けると、現場の何が一気に解けるのか

薬剤師として現場に立っていた時、業界のDXは「いつか来るもの」だった。 レセコンメーカーが提案してくるシステムは、現場を1日も見ていないのが分かる出来で、 動くけど誰も使わない機能が常に積み上がっていた。

その後コードを書くようになって、いま薬局向けのプロダクトを複数走らせている。 やってみて分かったのは、薬剤師×エンジニアという組み合わせが、思っていた以上にこの業界に効く ということだった。

なぜDXが進まないか、本当の理由

「現場が変化を嫌うから」とよく言われる。違う。

現場は 使えるなら使う。ただし、使えるものがほぼ無い。 業者から来るシステムは、業者が「薬局はこうだろう」と想像で作っているから、 現場の動線に乗らない。

例えばシフト管理。市販のシフト管理SaaSは「希望提出 → 自動編成」を売りにしているが、 薬局の現場はそんな単純じゃない。 管理薬剤師の常駐シフト規制、薬機法の調剤従事要件、店舗間のヘルプ送り、 パートさんの「子供の学校行事」、新人薬剤師の独り立ち判定。 これらは法律と人事と労務が同時に絡む話で、汎用シフトSaaSの「希望×自動」では解けない。

業者の言う「DX」は 解像度が足りない。 ここに、現場経験のあるエンジニアが入ると、解像度の問題が一気に解ける。 今回は触れないが、この例の場合、ここのHR領域の変数も入ってくる余地をプロダクトに持たせる必要性があったりもする。

コードで解ける薬局業務、3つの領域

実際にプロダクト化してみて、コードで明確に解ける領域 は今のところ3つだと感じている。

① 在庫

薬局の在庫は、データだけ見ると 異常な状態 にある。 1店舗あたり数千点規模のSKUを抱え、回転は遅く、不動在庫の比率も無視できない水準にある。 普通のECなら経営問題だが、薬局では「ジェネリックの切り替え」「処方医の変更」「採用薬の追加」 が常時発生していて、放置すると無限に積み上がる。

ここに月次の在庫xlsxを読ませて、 「不動在庫TOP20」「店舗間で偏っているSKU」「期限切れ間近」 を機械的に出すだけで、 現場の判断軸が一気に増える。難しいことは何もしていなくて、Excelの集計を機械化しただけ。 それでも効くのは、現場が今までやっていなかったからだ。

② シフト

前述の通り、汎用シフトSaaSは効かない。 だが、現場のルールをそのままコードに落とすと動く。

「常勤は週4以上」「管理薬剤師は週3日以上常駐」「ヘルプは隣接店舗から優先」みたいな ルールを JSONで定義 → 制約充足ソルバに渡す、というだけの構造でも、 業者の「自動編成」より遥かに現場に馴染む。 現場のルールを知っている人がコードを書く、これだけで差が出る。

③ 施設基準・届出

意外と知られていないが、薬局には数十種類の「施設基準」があり、 それぞれに 届出書類・更新タイミング・要件 が紐付いている。 管理薬剤師は常にこれを手書きの一覧表で管理している。

これは 構造化データそのもの だ。Supabase で1テーブル作って、 施設基準コード × 店舗 × 期限 をマトリクスで表示するだけで、 紙の一覧表が消える。期限の自動通知も付けられる。

この領域は 法律と業務が固いから、コードで解きやすい。 「あいまいな運用」が少なく、要件が明確に書ける。

薬剤師×コードが効く本当の理由

技術的に難しいことは何もしていない。

ただ、現場のどの数字を見れば判断できるか、を知っている人がコードを書く、 というだけで、業者が10年作れなかったものが3ヶ月で動く。 これは業者を責めているわけじゃない。 現場を知らない人が現場のシステムを作ること自体に無理がある、という構造の話だ。

そして、これは薬局に限らない。介護・歯科・整骨・動物病院、 専門性が高く、人手で回している現場には全部同じ構造の機会がある。 当事者だった人がコードを書けると、解像度が変わる。

薬剤師として現場にいた時間は、エンジニアとしての今、仕様書を書かなくていい資産 になっている。「業務フローのヒアリング」が要らない。自分が当事者だったから。 もちろん、今では現場を離れているので、改めてヒアリングが必要な場面も多い。 それでも、当事者だった時間の感覚は、ゼロから聞くより遥かに速く核心に届く。

これからの薬局DXに必要なのは

ベンダーが現場を知るより、現場の人がコードを書く方が速い。 全員が薬剤師×エンジニアになる必要はない。1チームに1人いれば、現場の解像度は埋まる。

薬剤師でコードを学び始めている人、エンジニアで医療領域に興味がある人、 どちらにも言いたいのは、この組み合わせは 想像以上に希少で、想像以上に必要とされている ということだ。

想定外は希望だ

私自身、まだやれていないことの方が遥かに多い。 ただ「現場×コード」で解ける問題が大量に転がっているのは、毎日実感している。