検索広告のアカウント診断をしていて、かなりの頻度で出会う構造がある。
アカウント全体のCPAはすごく良い。でも、成果の大半が「指名検索」から出ている。
指名検索とは、自社の店名・ブランド名で検索されることだ。 「〇〇教室 △△店」「(ブランド名) 予約」のようなクエリで、 検索した時点でその人はもう自社を知っていて、多くは行く気がある。
この指名検索に広告を出すと、当然ながら驚異的な数字が出る。 クリック単価は安く、CVRは高く、CPAは一般キーワードの数分の一。 そしてアカウント全体の平均CPAが、この指名分に引っ張られて「良く」見える。
何が問題なのか
「安く獲れてるならいいじゃないか」と思うかもしれない。問題は2つある。
問題1:その成果、広告がなくても起きていた可能性が高い
指名検索の下には、たいてい自社のサイトがオーガニック(自然検索)1位で出ている。 広告を出さなくても、その人はほぼ確実に自社サイトにたどり着く。
つまり指名検索のCVには、「広告がなくても獲れていた分」がかなり含まれている。 広告の真の貢献(増分)は見た目の数字よりずっと小さい。 競合が自社名に広告を被せてくるケースでは防衛出稿の意味があるが、 それは「獲得」ではなく「防衛」であり、成果としての意味合いが全く違う。
問題2:平均CPAが意思決定を狂わせる
より実害が大きいのはこちらだ。指名と一般が混ざったアカウントでは、
- 指名検索:CPA 800円、月40件
- 一般検索:CPA 12,000円、月10件
これが混ざると、アカウント平均CPAは約3,000円になる。 「CPA 3,000円、好調です」というレポートが毎月届く。
だが新規顧客の獲得——広告に本来期待している仕事——をしているのは一般検索の方で、 その実力は12,000円だ。もし許容CACが8,000円なら、この広告は実は赤字で新規を買っている。 平均3,000円という数字は、その事実を覆い隠す。
さらに悪いことに、この構造は多店舗ビジネスで店舗ごとに濃淡が出る。 知名度の高い旗艦店は指名検索が多く、数字が良く見える。 新店や郊外店は指名が少なく、数字が悪く見える。 「旗艦店は広告がうまくいっていて、新店はダメ」という誤った結論になり、 本当は逆——新規獲得の広告が機能しているのは新店の方——だったりする。
やることは1つ:指名と一般を分ける
処方箋はシンプルで、指名キーワードと一般キーワードをキャンペーンごと分離する。
- 自社名・ブランド名・店舗名(+ 表記ゆれ、カナ/ローマ字)を指名キャンペーンに隔離する
- 一般キャンペーン側には、指名クエリを除外キーワードとして登録する
- レポートは「指名」「一般」の2行で見る。合算の平均は見ない
分離した瞬間、見える景色が変わる。 「うちの広告のCPAは3,000円」だったものが、 「指名の防衛コストが月3万円、新規獲得の実力はCPA 12,000円」という 2つの別々の意思決定に分解される。
- 指名側:防衛が必要か?(競合が被せてきていないなら、減額・停止も検討できる)
- 一般側:CPA 12,000円は許容CACに収まるか? 収まらないなら何を直すか?
診断のチェックリスト
自社の検索広告がこの構造になっていないか、確認する手順はこれだけだ。
- 検索語句レポートを開き、自社名を含むクエリの費用とCVを抜き出す
- 「指名のCV ÷ 全体のCV」を計算する。5割を超えていたら要注意
- 指名を除いた一般検索だけのCPAを計算し、許容CACと比べる
管理画面を月に一度も開かない経営者でも、運用者に 「指名と一般を分けた数字をください」と一言伝えるだけでいい。 それが出てこない運用レポートは、精度以前に構造を見ていない。
まとめ
- 指名検索は「すでに来る気の人」への広告。CPAが良く見えるのは当たり前
- 指名が混ざった平均CPAは、新規獲得の実力を覆い隠す
- キャンペーンを指名/一般に分離し、除外キーワードで相互に隔離する
- 意思決定は「指名=防衛の要否」「一般=許容CAC内か」の2つに分けて行う
広告の数字は、合算するほど嘘をつく。 分けて見る——それだけで、同じアカウントから全く違う真実が出てくる。